沖縄の一診療所における最近3年間の白癬の菌相調査成績と統計的観察

やましろ皮フ科(主任 : 山城一純院長)
山  城  一  純

Incidence of Dermatophytoses and Dermatophytes Seen at a Private
Dermatology Clinic Okinawa Prefecture between 1993 and 1995


Kazuyoshi YAMASHIRO

Yamashiro Dermatology Clinic
Ginowan 901-2204,Japan (Chief : Dr. K. Yamashiro)





西 日 本 皮 膚 科 別 冊
平 成 12 年 10 月 発 行
(第 62 巻 第 5 号)

統    計


沖縄の一診療所における最近3年間の白癬の菌相調査成績と統計的観察

やましろ皮フ科(主任 : 山城一純院長)
山  城  一  純

 沖縄本島の南部に位置する宜野湾市の一皮膚科診療所における 1993 年1月から 1995年 12 月に至る3年間の白鱗患者統計,白鱗菌培養成績について述べた。3年間における白鱗患者の新患総数は 1734 名で外来新患者総数 18671 名に対する平均割合は 9.3%であった。病型別分類では足白鱗 1206 例(61.2%),体部白鱗 25 例(1.3%),顔面白鱗 25 例(1.3%)の順であった。全分離白鱗菌株数は 806 株,その内容はTrichophyton rubrum 420 株(52.1%),Trichophyton mentagrophytes 278 株(34.4%),Microsporumcanis 74 株(9.2%),Epidermophyton floccosum 17 株(2.1%),Microsporum gypseum 13株(1.6%),その他 Trichophyton violaceumが3株, Microsporum ferruginineum疑いが1株であった。 Trichophytonrubrum と Trichophyton mentagrophytes の比は全白鱗で 1.5,足白癬では0.8であった。調査を行なった3年間の各月の平均気温,平均湿度と白癬患者の月頻度とを比較してみると湿度の高い4月から7月の間に増加傾向を示した。
は じ め に
 沖縄の白癬菌培養成績については,1977年〜1978年の琉球大学保険学部の252株1),1981年〜1982年の同医学部の148株2)の2報告があるが,皮膚科診療所からのものはない。本邦においても大学病院,官公立病院からの報告が多く,診療所からのものは最近10年間には数編みるのみである。患者層が異なると考えられる病院と診療所,気候の異なる本土と沖縄とでは培養成績及び病型等に違いを示すのではないかと考え,1993年1月より白癬患者の病学,菌学的調査を始めた。3年間に当院を訪れた白癬患者の病型別白癬菌分離頻度,月別患者数及び気温,湿度との関係,年齢別頻度数及び男女比,Trichophyton rubrum 比(以下TR/TM比)などについて検討を加え報告する。
調 査 方 法
 1993 年1月から 1995年12月までの3年間に当院を受信し、KOH鏡検で菌要素陽性を確認しえた症例,及びKOH陰性例については臨床症例とこれまでの検査成績や治療経過から白鱗と診断された症例を調査の対象とした。同一患者で2年以上にわたって来診した場合,初年度に培養に成功し菌株が判明した症例については初年度のみに患者数と数え,それ以外の症例については菌種が判明する年まで培養を行いその都度患者数として数えた。同一患者で2病型以上合併している場合は,それぞれ病型について各1症例と数えた(患者のべ数と表す)。年齢別頻度等では2種以上の病型を合併していても患者1名につき1症例として数え患者実数で表わした。患者数の月別頻度では同一月に2病型以上合併している場合は1症例と数え,同一患者で別の月に別の病型で受診した場合,その月ごとに1症例と数えた。白鱗菌の培養には抗生物質加サブロー培地を使用し,菌種同定の確認は長崎大学医学部皮膚科学教室(主任:片山一朗教授)及び長崎市民病院皮膚科西本勝太郎博士に依頼した。


結    果
 1.疫学的成績
a)白癬患者実数の新患総数に占める割合(表1)
 3年間の患者実数、男女比、新患総数に占める白癬患者の割合を示した。3年間の白癬患者実数は1995年が616名で最も多く,合計は1734名であった。新患総数に占める白癬患者の割合は1993年が12.2%で最も多く3年間の平均では9.3%であった。白癬患者実数(1734名)の男女別では男702名(40.5%),女1032名(59.5%)を数えた。新患総数18671名の男女の内訳は男6649名(35.6%),女12022名(644%)で,男女のそれぞれの外来新患総数に占める白癬患者の割合は男性(男性10.6%,女性8.6%)が高かった。
b)白癬患者の年齢別,性別頻度(表2)
 10歳ごとに3年間の男女の年齢別頻度を表す。男女とも40歳代(22.2%)が最も多く30歳代から50歳代の患者が約6割を占める。10歳未満の小児の患者は白癬患者全体の7.6%で外来総患者に占める割合は0.7%であった。同様に70歳以上の患者数はそれぞれ4.9%,0.5%で小児患者数が老人患者数を上まわった。
c)月別の全白癬患者数,足白癬患者数と平均気温,平均湿度の関係(表3)
 3年間の月別の全白癬患者数,足白癬患者数及び平均気温,平均湿度を表す。3年間の毎月の白癬患者数の合計はのべ1753名,白癬患者実数1734名に対し足白癬患者数は1206名で69.6%を占めている。年ごとの足白癬患者の全白癬に占める割合は1993年が67.1%,1994年が66.2%,1995年が74.8%であった。
 月別患者数は1993年,1995年が5月から1994年が4月から8月ないし9月から減少し,1月〜2月に最も少ない頻度を示した。気候との関係では1993年の5月は平均気温が4月より4.1℃上昇し,1994年の4月は3月より平均気温が5.8℃,平均湿度が12%も上昇していた。
表1 白癬患者実数の新患総数に占める頻度及び男女比
白癬患者実数(%) 新患総数の
男女合計数
新患者数に占める割合(%)
年度 総数 男性 女性
1993 571 247(43%) 324(57%) 4688 12.2
1994 547 228(42%) 319(58%) 6535 8.4
1995 616 227(37%) 389(63%) 7448 8.3
1734 702(40.5%) 1032(59.5%) 18671* 9.3
*6649, 女12022
表2 月別の全白癬患者数,足白癬患者数と平均気温,平均湿度との関係
0-9 10-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70-79 80-89
男性 58 54 78 152 167 107 66 16 4 702
女性 74 75 127 210 218 170 93 54 11 1032
132 129 205 362 385 277 159 70 15 1734
表3 月別の全白癬患者数,足白癬患者数と平均気温,平均湿度との関係 
1993 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
全白癬患者数 22 36 42 47 89 63 59 65 46 41 34 30 のべ574
足白癬患者数 10 22 29 36 69 46 39 47 27 26 16 16 383
平均気温 17.6 17.2 18.4 20.8 24.9 27.3 29.4 29.3 27.9 25.3 23.1 18.9 23.1
平均湿度 71.8 64.1 71.4 77.8 77.7 82.7 78.7 77.3 74.4 68.3 74.4 64.9 73.7
1994 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
全白癬患者数 27 36 25 63 58 66 79 45 45 44 36 36 のべ550
足白癬患者数 16 19 18 52 46 55 57 26 24 18 16 15 362
平均気温 17.3 17.3 17.1 22.9 23.5 27.2 29.8 28.9 27.1 24.7 22.7 20.5 23
平均湿度 66.1 68.8 68.7 80.7 77.9 86.2 76.5 80.4 68.1 74.4 71.3 74 74.5
1995 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
全白癬患者数 12 13 30 47 80 101 108 46 56 62 85 36 のべ629
足白癬患者数 5 8 18 29 68 80 83 35 42 46 23 24 461
平均気温 16.4 15.7 17.6 22.1 23.3 26.3 28.5 29 27.8 26.1 21 17.8 22.7
平均湿度 66.2 68 69.4 81.7 79.5 88.4 79.4 78.1 76.2 76.9 61.9 63.9 74.2
'93〜'95 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
全白癬患者数 61 75 97 157 227 230 246 156 147 147 105 105 のべ1753
足白癬患者数 31 49 65 117 183 181 179 108 93 90 55 55 1206
平均気温 17 16.6 17.7 21.7 23.8 26.7 29 28.9 27.4 25.1 22.1 18.9 22.9(年平均)
平均湿度 68 67 69.8 80.1 78.4 85.8 78.2 78.6 72.9 732 69.2 67.6 74.1(年平均)


 2.病型別頻度及び菌学的成績
a)病型別白癬菌分離頻度(表4
 病型別白癬菌分離頻度と各病型のTR/TM比を表す。白癬患者の総実数は1734名だが,1名で2病型以上有する場合があるので総のべ患者数として1969名を数えた。各病型の頻度は足白癬1206例61.2%,顔面を除いた体部白癬283例14.4%,爪白癬(指趾)267例13.5%,陰股部白癬126例6.4%,手白癬37例1.9%,頭部白癬25例1.3%,顔面白癬25例1.3%の順であった。病型別の培養陽性率は全体で40.9%,顔面白癬が88%で最も高く爪白癬が13.1%で最も低かった。
 分離された総菌株806株の内,Trichophyton rubrum (以下T.rubrum と略す)は420株52.1%,Trichophyton mentagrophytes (以下 T.mentagrophytes と略す)は278株34.5%,Microsporum canis (以下 M.canis と略す)は74株9.2%,Epidermophyton floccosum(以下E. floccosum略す)17株2.1%,Microsporum gypseum(以下M. gypseumと略す)13株1.6%,その他が4株(Trichophyton rubrum 3株,Microsporum ferrugineum 疑い1株)0.5%であった。
b)T.rubrum と T.mentagrophytes の月別分離数,TR/TM比と平均気温及び平均湿度との関係(表5
 全白癬患者及び足白癬患者のT.rubrumT.mentagrophytes の月別分離数,月の平均気温,平均湿度,TR/TM比を表す。
 全白癬患者数及び足白癬患者数,T.rubrum 数,T.mentagrophytes 数の割合及び両者のYR/TM比について検討してみると,割合については全白癬患者実数1734名の内,足白癬患者数が1206名(69.6%)でTR/TM比は全白癬患者が1.5に対し足白癬患者は0.8と全ての病型の中で最も引く,体部白癬が55.5で最も高かった。気候との関係では平均気温が20℃,平均湿度が70%をこえた4月から10月の間に足白癬患者が激増しTR/TM比の逆転を呈した。この間も全白癬患者も足白癬患者の激増により増加しているがTR/TM比の逆転は5月のみで,足白癬以外の病型のT.rubrum 数の増加が示唆された。12月から1月にかかけての全白癬及び足白癬のTR/TM比の増加は足白癬のT.mentagrophytes 数の激減によるものであった。
表4 病型白癬菌種分離頻度
病型 患者数(%) 培養陽性数 培養陽性率 T.rubrum T.mentagrophytes M.canis E. floccosum M. gypseum その他 TR/TM比
足白癬 1206(61.2%) 482 40% 213 261 1 4 1 2(1) 0.82
体部白癬 283(14.4) 174 61.1% 111 2 43 7 9 2(2) 55.5
爪白癬 267(13.5%) 35 13.1% 29 6 0 0 0 0 4.83
陰股白癬 126(6.4%) 57 45.2% 46 5 0 5 1 0 9.2
手白癬 37(1.9%) 18 48.6% 12 3 1 1 1 0 4.0
頭部白癬 25(1.3%) 18 72% 1 0 16 0 1 0
顔面白癬 25(1.3%) 22 88% 8 1 13 0 0 0 8
1969(100%) 806 40.9% 420(52.1%) 278(34.5%) 74(9.2%) 17(2.1%) 13(1.6%) 4(0.5%) 1.51
 その他
 (1)T.violaceum(2例)
 (2)T.violaceum(1例) M.ferrugineum 疑い(1例)
表5 全白癬,足白癬におけるT.rubrum(Tr)とT.mentagrophytes(Tm)の月別分離数,TR/TM比と平均気温,平均湿度との関係
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
全白癬患者数 61 75 97 157 227 230 246 156 147 147 105 105 のべ1753(実数1734)
Tr数 16 17 28 41 50 57 57 36 29 37 28 24 420
Tm数 3 3 4 31 56 51 49 22 23 20 12 4 278
TR/TM比 5.3 5.7 7 1.3 0.9 1.1 1.2 1.6 1.3 1.9 2.3 6 1.5
足白癬患者数 31 49 65 117 183 181 179 108 93 90 55 55 1206
Tr数 9 8 17 23 28 32 24 14 14 18 12 14 213
Tm数 2 3 3 29 56 49 46 20 21 19 9 4 261
TR/TM比 4.5 2.7 5.7 0.8 0.5 0.7 0.5 0.7 0.7 0.9 1.3 3.5 0.8
足白癬以外の患者数 30 26 32 40 44 49 67 48 54 57 51 50 のべ548
Tr数 7 9 11 18 22 25 33 22 15 19 16 10 207
Tm数 1 0 1 2 0 2 3 2 2 1 3 0 17
TR/TM比 7 11 9 22.5 11 11 7.5 19 5.3 12.8
3年間の平均気温 17 16.6 17.7 21.7 23.8 26.7 29 28.9 27.4 25.1 22.1 18.9 22.9(年平均)
3年間の平均湿度 68 67 70 80 78 86 78 79 73 73 69 68 74.1(年平均)



か ん が え
 やましろ皮フ科における 1993 年から 1995 年までの新患総数は 18671 名で,その間の白癬患者実数は 1734 名(のべ患者数 1969 名)を数えた。のべ白癬患者の新患総数に対する割合は 1993 年が 13.7%で最も高かったが,これはこの年の新患総数が 4688 名と 3年間で最も少なかった( 1994 年の 72%, 1995 年の 63%)ことによるものと考えた。この理由としては,当医院が開業している地区(人口約 10 万人)の皮膚科専門医は著者を含め 2 名しかおらず,他科の医院では湿疹,皮膚炎郡のステロイド外用治療については容易になされるも,真菌検査や時には培養も必要となる白癬の患者の診断,治療については不十分なために当医に白癬患者がふえたと考えられた。 1994 年は 9.0%, 1995 年は 10.0%で 3年間の平均割合は 10.6%であった。この値は診療所からの報告としては芝木3)の 7.1%,原ら4)の 7.4%より高く,今福5)の 11.1%より低くなっている。官公立病院からの報告と比較すると北海道大学6)の 5.5%,旭川医科大学7)の 6.1%,東北地方8)の 6.52〜7.82%,秋田大学9)の6.76%,千葉大学10)の 7.7%,市立小樽病院11)の 4.8%,九州大学2)の 8%より高く,金沢大学12)の 9.6%,岐阜大学13),神戸地方14)の 9.9%,鳥取大学15)の 10.5%より低かった。又全国 17 施設の疫学調査をまとめた 1992年次日本医真菌学会皮膚真菌症疫学調査成績16)(以下疫学調査と銘記)の白癬の頻度 10.9%よりも低かった。疫学調査では調査施設が南へ行く程白癬の頻度は高くなる傾向がみられたが,当医院の頻度が当初予想したより低かったのは,白癬以外の患者数が相対的に多かった事によるものと考えた。実際 3年間ののべ患者は 1969 名, 1年間の平均のべ患者数が 656 名で,疫学調査の 1 施設平均 495 名,芝木の 646 名(疫学調査16)),今福5)の 604 名を凌ぎ,のべ白癬患者数としては疫学調査16)の 17 施設の中でも 4 番目に多い値を示した。
 当医院の白癬患者の男女比はおよそ 2 対 3 の割合で女性に多かったが,その要因の 1 つに女性の外来受診率の高さ(女 64.4%,男 35.6%)があげられる。これまでの報告では,全て男性の白癬患者数が女性を上まわっているが,新患総数に占める男女比が記されていないので,男女の白癬の罹患率の差については今後検討を要すると思われる。男女の年齢別頻度では,男女とも 1993 年が 30 歳代, 1994 年と 1995 年は 40 歳代が患者数の最多数を認め, 3 年間の合計で 30 歳以上 60 歳未満の患者が全患者数の約 60 %を占めた。 10 歳未満の小児の患者数( 132 名)は全白癬患者の 7.6%を占め,疫学調査16)の 2.7%( 15歳未満小児),芝木3)の 3.5%をはるかに上まわった。小児の病型分類頻度は体部白癬 68 例,頭部白癬 21 例,足白癬 20 例,股部白癬 11 例,顔面白癬 8 例,手白癬 2 例,菌種分類頻度は M.canis 48 例, T.rubrum 14 例,T.mentagrophytes 7 例,E.floccosum 2 例,M.gupseum 1 例となっており,成人と比較して体部及び頭部白癬が多く,又その原因菌としての M.canis の侵淫及び流行が小児白癬患者の頻度の高さに強く影響していた。
 白癬患者の月別変動については,それぞれの年の各月の患者数の順位と平均気温,平均湿度に特別な関連性を見出すことはできず,何か別の要因(台風あるいは長期の降雨等による患者受診率の低下 etc)が関連している可能性も考えられた。 3年間の合計の全白癬の月別患者数の頻度については,共通して 7月から 8月にかけての患者数の減少が顕著であった。この 7月から 8月にかけての全白癬及び足白癬の患者の減少率(患者の減少数のの年間患者数に対する割合)についてみてみると,当医院の全白癬患者で 5.1%(1993 年減少なし, 1994 年 6.2%, 1995 年 9.9%),足白癬患者で 5.9%(1993 年減少なし, 1994 年 8.6%, 1995 年 10.4%),今福5)の報告では全白癬患者で 5.9%,足白癬患者で 7%,藤広ら17)の報告では足白癬患者で 5.5%の減少率となっている。当医院の 1994 年, 1995 年の 8月の患者数の落ちこみと各年及び 3年間の平均気温,平均湿度に相関関係を認めることはできず,この現象が一時的なものか否か今後調査をかさねる必要があると思われる。
 病型別頻度(表 4 )では足白癬が 61.2%で最も多く,疫学調査の 64%に近い値を示した。足白癬の頻度については,国公立病院より診療所において高い傾向を示すが,当医院の頻度 61.2%は診療所の報告の中では最も低かった。この足白癬の頻度については,沖縄県の足白癬の頻度が他の病型に比べて低いのか,病識の低さによる受診率の低下のためなのか不明であった。体部白癬の頻度( 14.4%)は疫学調査16)の 9.4%,今福5)の 10%,秋田大学9)の 11.9%〜13.4%より高く,金沢大学12)の 14.8%より低かった。
 体部白癬の年齢別頻度については疫学調査16)では 60 歳代, 50 歳代, 40 歳代の順に高く中高年齢層にピークを認めたが,当医院では 10 歳未満(24%),10 歳代(14%)の小児,学童子に高かった。当医院の 10 歳未満の体部白癬の患者 68 名中 26 名が M.canis(T.rubrum は 8 名)感染で占められ,小児体部白癬の発症に M.canis 感染が強い影響を与えていると考えた。又 M.canis感染患者の感染部位別」の頻度は四肢( 33.3%),体幹( 29.4%),顔面( 20.6%),頭部( 16.7%)で露出部に高い傾向を示した。
 爪白癬の頻度は 13.5%で疫学調査16)の 16.7%,芝木3)の 14.2%より低く,今福5)の 6.3%より高かった。陰股部白癬,手白癬の頻度はそれぞれ 6.4%, 2%で,疫学調査16)の 6.5%, 3%に近い値を示した。
 顔面の白癬については,体部白癬の中に含めて病型分類している報告が疫学調査16)も含めて多数みられるが,著者は沖縄において全白癬菌の頻度に対する M.canis の浸淫の影響が大きいと考え,体部白癬とは別に顔面のみを浸す白癬を顔面白癬として病型分類した。これまでの報告では体部白癬の一部として顔面白癬の頻度が報告されており九州大学2)の 6.4%,岐阜大学13)の 3.1%,鳥取大学15)の2.9%といづれも当医院の頻度1.3%より高くなっている。これは M.canis 感染者の感染部位が四肢を露出して生活することが比較的多く,白癬菌の感染が顔面よりも四肢で初発する頻度が高い事が影響していると考えた。
 当医院の頭部白癬については浅在性のみでケルスス禿瘡は認められず,当医院受診前にステロイド使用歴のあるのは25例中4例であった。頭部白癬の頻度1.3%は疫学調査16)の0.4%,今福5)の0.2%よりはるかに高く,岐阜大学13)の1.3%,九州大学2)の1.4%に近い値であった。
 当医院の白癬の病型分類の頻度について本土の報告と比較してみると,足,体部,爪,陰股部,手等の白癬の頻度は他報告の平均的な値を示したが,顔面白癬の頻度はこれまでの報告のなかでも高い傾向を示した。
 3年間の全病型の平均培養陽性率は40.9%で,金沢大学12)の53.5%〜74.7%,藤広ら17)の75.4%,今福5)の66.6%より著しく低く,疫学調査16)の40.9%に近かった。年度別にみると1993年が32.2%,1994年が35.7%,1995年が51.5%で徐々に培養陽性率は向上しているが,その理由の一つに,培養開始初期から抗生物質として0.005%のchloramphenicol 入りの培地を使用していたが1994年の中頃からchloramphenicol にくわえて0.05%cycloeximide を混入した培地に変更したことがあげられる。培養陽性率の低さの原因として亜熱帯特有の年間を通した気温,湿度の高さによる雑菌の混入もあげられるが,その点については培地の改良と共に病例をかさね今後の成績とも比較する予定である。
 全病型の分離件数は806株で菌種頻度は T.rubrum 420株52.1%,T.mentagrophytes 278株34.5%,M.canis74株9.2%,E.floccosum 17株2.1%,M.gypseum 13株1.6%と続く。M.canis の頻度9.2%は旭川医科大学7)の5.4%,芝木3)の3.9%,疫学調査16)の1.4%よりはるかに高く,症例数は少ないが琉球大学の33.1%1)(1977年〜1978年,全252株中32株),12.7%2)(1981年〜1982年,全252株中49株)に次いで多かった。年度別にM.canis の分離株数をみてみると,1994年が16株となっており1994年の流行にあったことが疑われた。M.canis 74例のうち問診で感染経路が推測できたのは54例(猫35,犬15,猫or犬4)であった。また48例(64.9%)は10歳未満の小児で沖縄地方のM.canis の分離頻度の高さを示唆するものであった。M.gypseum の頻度1.5%は本土での最高頻度である市川18)の1.0%より高かった。琉球大学の頻度(3.2%1),1.4%2))と考え合わせると,M.canis 同様沖縄地方のM.gypseum の分離頻度の高さをうかがわせる結果であった。M.canis は74例中,体部(43例),頭部(16例),顔面(13例)等の病型を,又M.gypseum は体部白癬(13例中9例)を多く認め,T.violaceum は足白癬2例,体部白癬1例で分離された。
 病型別の分離菌種頻度をみてみると足白癬では T.rubrum とT.mentagrophytes の両者で98.3%を占め,TR/TM比は0.82であった。本土の足白癬のTR/TM比については金沢大学12)の0.66,今福5)の0.92等が低く,岐阜大学13)の2.22,九州大学2)の4.81等が高く疫学調査16)では1.69であった。足白癬の月別数(表5)をみると4月から上昇し始め5月〜6月にピークに達しその後徐々に減少している4月〜10月の間に足白癬の約80%を認め,この間のT.rubrum 数は153株,T.mentagrophytes 数は240株を数え,TR/TM比は2.86と逆転し,T.mentagrophytes がT.rubrum より季節に強く影響され易いとこが示唆された。琉球大学における足白癬の培養成績では1977年〜1978年1)がT.rubrum 30株,T.mentagrophytes 26株,TR/TM比1.15で1981年〜1982年2)がT.rubrum 9株,T.mentagrophytes 17株,TR/TM比0.53でいずれも症例数は少ないが著者の成績に近かった。
 体部白癬ではT.rubrum が111株63.8%,M.canis が43株24.7%,M.gypseum が9株5.2%,E.floccosum が7株4.0%,T.mentagrophytes はわずか2株1.1%であった。M.canis の頻度24.7%は80年代の芝木3)の32.2%より低いが疫学調査16)の6.1%よりはるかに高く,M.gypseum の頻度5.2%は琉球大学2)の頻度3.8%をはじめとするこれまでの報告のなかで最も高かった。逆にT.mentagrophytes は1.1%で疫学調査16)の8%よりはるかに低かった。
 陰股部白癬ではT.rubrum の頻度が80.7%に対しT.mentagrophytes ,E.floccosum の両者がそれぞれ8.8%で,疫学調査16と比較するとE.floccosum の高さが目立った。
 手白癬の患者37例中7例は足白癬を,4例は爪白癬を,2例は体部白癬を,1例は股部白癬をそれぞれ合併していた。両部位の培養に成功した合併例は4例でその内2例がT.rubrum (手-体部,手-股部),1例がT.mentagrophytes (手-足),あとの1例は手がT.mentagrophytes ,足はT.rubrum で感染経路の違いを示唆していた。
 顔面白癬の分離菌種頻度はM.canis が59.1%,T.rubrum が36.4%であったが,鳥取大学15)がM.canis 10%,T.rubrum 73.3%,岐阜大学13)がM.canis 4.3%,T.rubrum 83.0%,九州大学2)がM.canis 10.1%,T.rubrum 64.2%となっており,菌種の分離頻度について著者の結果と本土報告例とはほぼ逆転する結果であった。これは当地における1994年の流行(35株)が影響していると考えた。
 頭部白癬の患者は25名で培養成功例18例の内16例がM.canis (88.9%),T.rubrum 1例,M.gypseum 1例であった。25名の患者の内21名(84%)は10歳未満でその中で14例がM.canis であった。篠田ら19)の報告(10年間の頭部白癬40例)では頭部白癬40例中29例(72.5%)が10歳未満の小児でその中でM.canis が25例を占めており,小児の頭部へのM.canis の感染機会の多さを指摘している。その他の診療所からの報告では原ら4)の報告(8年間)が多く,48例の頭部白癬(含ケルスス禿瘡25例)の中でM.canis が39例を占めている。琉球大学からの2報告(1977年〜1978年1),1981年〜1982年2))で前者においては頭部白癬36例(含ケルスス禿瘡6例)の分離菌種(M.canis 37例,T.violaceum 10例,T.gypseum 6例,T.rubrum 2例),後者においては頭部白癬39例(含ケルスス禿瘡14例)分離菌種(M.canis 37例,T.gypseum2例) がそれぞれ報告され,その中で頭部白癬におけるM.canis の浸淫が著しいことが指摘されている。九州では福岡県におけるM.canis 感染症の第1例を1974年に中原ら20)が報告しているが,沖縄ではその1年後に国吉ら21)が当地での第1例を報告している。これらの報告からM.canis は20数年前九州から沖縄へと浸淫し,沖縄では小流行(著者例:1994年M.canis 35株分離)をくりかえしながら現在にいたっていると考えられる。
 本論文の要旨は1997年度日本皮膚科学会第25回沖縄地方会(1997年2月23日,沖縄県西原町)で発表した。稿を終えるにあたりご指導,ご教示頂いた西本勝太郎博士,菌の同定にご協力を頂いた長崎大学皮膚科教室(主任:片山一郎教授)及び本間喜蔵先生に深謝する。
 


文    献
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 9) 岡田 理,高橋伸也:秋田大学皮膚科1987〜1991年5年間の白癬の疫学ならびに菌相.西日皮膚 56:769-774,1994.
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 15) 川口俊夫:鳥取大学付属病院皮膚科における昭和56年-昭和59年の白癬菌相.日皮会誌 96:1627-1638,1986.
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 17) 藤広満智子ほか:損斐総合病院皮膚科における6年間の白癬菌相.西日皮膚 55:718-726,1993.
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 19) 篠田英和,西本勝太郎:頭部白癬の40例.西日皮膚 58:64-69,1996.
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                       (1998年11月11日 受付・1999年10月27日 採用決定)
                       別刷請求先:〒901-2204 宣野湾市上原1-2-9
                                        やましろ皮フ科
                                        山城 一純
Incidence of Dermatophytoses and Dermatophytoses Seen at a Private Dermatology Clinic in Okinawa Prehecture between 1993 and 1995

Kazuyoshi YAMASHIRO
  The incidence of dermatophytoses and the causative dermatophytes in the Yamashiro Dermatology Clinic in City, Okinawa, Japan from 1993 to 1995 was studied. A total of 1969 patients with dermatophytoses, consisting of 9.3% of all outpatients, were observed. They included 1206 patients with tinea pedis, 283 with tineacorporis 267 with tinea unguium, 126 with tinea cruris,37 with tinea manus,25 with tinea capitis and 25 with tinea faciei.The species most frequently isolated throghout all clinical forms was Trichophyton rubrumi (421 strains,52.2%),followed by Trichophyton mentagrophytes (278 strains,34.4%), Microsporum canis (74 strains,9.2%), Epidermophyton floccosum (17 strains,2.1%), Microsporum gypseum (13 strains,1.6%) and Trichophytom violaceum (3 strains). The ratio of Trichophyton violaceum to Trichophyton mentagrophytes was 1.5 in all the tinnea patients. In contrast, in tinea pedis, Trichophyton rubrum (213 strains) was isolated less than Trichophyton mentagrophytes (261 strains) and the ratio was 0.8. The seasonal variation of incidence was more conspicuous with tinea pedis caused by Trichophyton mentagrophytes. The climatic factor which most greatly influenced the occurrece of tinea pedis was suspected to moisture.